不幸にどう向き合うか。宮部みゆき「小暮写眞館」

宮部みゆき作品の人物描写の秀逸さは、本好きなら誰もが認めることだろう。
特に少年少女の心の機微を書かせたら、彼女の右に出る者はいないのでは?と読みながらいつも感じています。
洒落たストーリーや面白い話を書く作家は沢山いると思います。そんな作家の本は、読んでいる時はとても楽しいのですが、読み終わった途端に心は本から離れ、読後には何も残りません。
でも、宮部みゆきの作品は、読み手をグイグイ引き込むストーリーもさることながら、登場人物の心情が心の中に居座ります。言ってみれば、それは小説世界に心が飛び込みその世界で生きる感覚です。
そんな小説を読んでも、ストーリーは意外とすぐに忘れてしまいます。でも、登場人物の心は何時までも私の心に残り続け、また彼らに会いたくなる。そんな時、一度読んだ本を再読する事になるのです。
そしてこの作品もまた、いつか読み返す事になるでしょう。魅力的な彼らに再会するために。

ここで「小暮写眞館」のさわりの部分を記しておきます。

ちょっと変わり者の両親が買った、古い写真館付き住居に引っ越してきた高校生の花菱栄一。家族で住み始めても写真館の看板をそのままにしていた事から、営業を再開したと勘違いした女子高生から持ち込まれた一枚の写真。それは、賑やかに会食する六人の人々が写るスナップ写真。だが、ありえない場所に七人目の女性の顔が浮かんでいる…それは心霊写真だった。そんな不思議な写真を見てしまった栄一は、親友のテンコ(店子くん)に写真を見せたのだが…

このさわりの部分だけを読んだ大抵の人は、高校生の素人探偵栄一君が次々と心霊写真の謎を解いていく話ね。と思うでしょう。それはある意味正解なのですが、この話はそれだけではありません。いや、謎解きの部分は付け足しといってもよく、メインテーマは「不幸」にどう向き合うか。そして「初恋」。この二つが絡み合いながら進んでいきます。いや、二つとも最初はサブテーマの様な顔をして少しずつ出てきます。それがいつの間にか大きなテーマとして浮かび上がって来るのです。
ネタバレしない様に書くのは難しいのでこの位にしておきますが、いつも素晴らしいラストシーンを描く宮部みゆき作品の中でも、この作品のラストは特に心に残ります。
ちょっと長い作品ですが、未読の方は是非読んでみて下さい。
素敵な読後感を味わえますよ!

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